【第17号】フクシマ「不都合な現実」。100倍の放射線量。斑点が浮かぶ牛

 

 

 

◎3・11大震災で壊滅的な原発被害を受けた福島。帰宅困難区域に指定された地区は未だ高い放射線量で人は立ち入ることができない。そのぎりぎりまで近づき、取材した。

  

福島第1原発から14㎞ の距離にある「希望の牧場・ふくしま」(双葉郡浪江町)。原発の爆発後、多くの牧場は牛を置いたまま避難したが、希望の牧場は人が居残りずっと牛の世話を続けている。同牧場は、居住制限区域〈年間20㍉シーベルト超の可能性がある地域で、日中立ち入りはできるが生活はできない地域〉と帰宅困難地域〈年50Sv(シーベルト)超、立ち入りできない地域〉をまたぐ場所にある。  

    

希望の牧場の事務局長・針谷勉氏の運転するバンに同乗させてもらい、5月の深夜、東京から同牧場へと向かった。「もう少しすれば右側に第1原発が見えるかもしれません」

 

運転する針谷氏がそう教えてくれた。常磐道をひた走り、原発に近づいたようだが結局、その姿は見えなかった。その代わりに道路脇の放射線量を計るモニタリング表示器が目につくようになった。1つ追い越すと新しい表示器がすぐに現れ、そのたびに数値が上がっていく。

 

帰宅困難区域の大熊町横を通り過ぎた辺りで毎時5μSv(マイクロシーベルト、㍉Sv の千分の一)を記録。これは国が定める基準値の毎時0・23μSvの約20倍。都内や大阪市内だと毎時0・05μSv 以下の場所もある。それと比べれば約100倍以上の放射線量だ。

 

無言の車内。午前4時過ぎ、暗中行き交うほかの車両はない。姿を現さなかった原発と、そこから放たれる放射線。夜明け前のせいだろうか、肌寒かった。

 

朝5時、到着。牧場代表・吉沢正巳氏がすでに重機を動かし作業中だった。2、3時間もすれば330頭いる牛たちの餌の時間となる。畜牛は通常、30 カ月で出荷されるが、同牧場の牛たちは寿命が尽きるまでここで暮らす。原発の爆発以降、汚染され出荷できないからだ。「牛からすれば食べるだけ食べてまるまる太って、幸せだね」と吉沢氏が笑う。

 

「餌は汚染された乾草などを無料でもらっています」(針谷氏)

とは言え、年間経費は2000万円かかる。ほとんどが寄付に頼っている。餌も確実にあるとは限らない。

 

 

 

◎白い斑点と腫瘍

 

 20頭の牛の体表に数多くの白い斑点がある。獣医は原因に思い当たる点はあるようだが、明言を避るという。

 

「原発爆発の以前、斑点が出る牛なんて1頭もいなかった。うちだけじゃなくほかの牧場でもおんなじ斑点牛が出ている」(吉沢氏)。腫瘍がある牛もいる。放射能汚染のせいとしか考えられないが、メディアや学者は言葉を濁し一様に「原因不明」と結論付ける。

 

吉沢氏が言う。「牛を元気に育てて出荷するのがベコ(牛)屋。それを商品にならないから見捨てるのは……今も飼い続けるのはベコ屋の意地だ。残された牛と、国から見捨てられた福島の人たち。避難のために、他の命を見捨てざるを得なかった人も大勢いる。だからこそ、おれは牛を見捨てたくない」。牧場は現在も毎時2μSvの放射線が飛び交う。

 

あるテレビ局の記者は「上司から『震災の暗い話はもういい。明るい企画を出せ』と言われます」と嘆く。上辺だけの〈復興〉を奏でるメディアや政府が見たくない〝不都合な現実〟が、今も福島にはある。